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心に残る本50選【ここは退屈迎えに来て】〜「ここではないどこか」を求める貴方へ〜

ここは退屈迎えに来て

ここは退屈迎えに来て」の目次

I.こんな人におすすめ

「ここではないどこか」を求める人。

II.作者

山内マリコ

III.あらすじ

booklog.jp

そばにいても離れていても、私の心はいつも君を呼んでいる。都会からUターンした30歳、結婚相談所に駆け込む親友同士、売れ残りの男子としぶしぶ寝る23歳、処女喪失に奔走する女子高生、、ありふれた地方都市で、どこまでも続く日常を生きる8人の女の子。居場所を求める繊細な心模様を、クールな筆致で鮮やかに描いた心潤う連作小説。

IV.読破後の気持ち

この小説はある地方都市で生きる八人の女性をそれぞれ主人公とした、八つの物語で構成される短編集である。東京から地元に帰ってきたライター、結婚相談所に通う元グラビアアイドル、学校をサボってゲーセンに通う大学院生、セフレとの関係をなんとなく切れずにいるフリーター、アメリカにひたすら憧れ続ける大学生、進学の為に東京へ引っ越す受験生、援助交際に走る女子高生、処女喪失に奔走する女子高生。同じ地方都市で様々な悩みや希望の中で生活する女性達を描いた物語だ。

 

この主人公の女性はそれぞれ異なる境遇にあるが、共通点として自分の現状に満足していない点が挙げられる。「学校生活が楽しくない」、「社会人として上手くいかない」、「理想の異性に出会えない」、「夢が叶えられない」、「過去に戻りたい」、、。そんな数多の不安や悩みを抱えている彼女らは、それらの助けとして「ここではないどこか」を求める。「ここ」は紛れも無い彼女らが生きる地方都市のことで、主人公が求める「どこか」は東京だったり、アメリカだったり、なんとなくの概念としてのどこかであったりする。なぜ自分の現状や人生への不満を彼女らは「ここ」の所為にするのか。それは「ここは退屈」だからである。地方都市という極端な田舎でも都会でも無い、生活しようと思えば何不自由無く生活出来てしまう退屈な町で生きる彼女らは、没個性な町に埋もれる自分を恐れ且つその町を理由に埋もれていく自分を諦めているのだ。

 

この八つの物語を通して、異質な人間として描かれているのが椎名という男である。椎名は学生時代、所謂カースト最上位のリア充で、現在は地元で自動車学校の教官をしている。彼はこの小説の主人公達の同級生だったり、好きな人だったり、兄妹だったりと様々な関係の人間として登場する。彼が彼女らと比べて異質な部分は、「ここではないどこか」を求めていない点である。側から見てキラキラとした学生生活が終わっても、地元で仕事をして、結婚して、子供もいて、「家帰ったらスカパーでプレミアリーグ見るだけで寝る時間だし」という彼女らが退屈に感じるような、「普通」の日々に椎名は満足しているのである。一方で学生時代にカリスマ的存在だった椎名が、そんな「普通」の人間になってしまっていることも、地方都市のリアリティを含めて見事に表現されている。

 

「ここは退屈」という彼女らを迎えに来るのは誰なのだろうか。この物語の中で彼女らが迎えを頼んだり期待するのは例外無く「ここ」の中の人間である。もしかしたら「迎えに来て」と願い待っている彼女達に、本当に「ここ」から出ていく勇気など無いのかもしれない。それでもそんな彼女達を突き放すのではなく、見守りながら共にある感覚にさせられる物語だ。