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心に残る本50選【四畳半神話大系】〜学生生活に満足していなかったり、後悔がある貴方へ〜

四畳半神話大系 四畳半シリーズ (角川文庫)

四畳半神話大系」の目次

I. こんな人におすすめ

学生生活に満足していなかったり、後悔がある人。

II. 作者

森見登美彦

III.あらすじ

booklog.jp

「私」は冴えない大学3回生。バラ色のキャンパスライフを想像していたのに、現実は程遠い。悪友の小津には振り回され、謎の自由人・樋口師匠には無理な要求をされ、孤高の乙女・明石さんとは、なかなかお近づきになれない。いっそのこと、ぴかぴかの1回生に戻って大学生活をやり直したい!さ迷い込んだ4つの並行世界で繰り広げられる、滅法おかしくて、ちょっぴりほろ苦い青春ストーリー。

IV.読破後の気持ち

 「我々は運命の黒い糸で結ばれてるというわけです」

 

この物語の主題は小津のこの言葉に集約されているといえるだろう。

 

大学三回生の主人公「私」が入学前に想像していたのは「異性との健全な交際」、「学問への精進」、「肉体の鍛錬」といった薔薇色のキャンパスライフだったが、現実は厳しく「異性からの孤立」、「学問の放棄」、「肉体の衰弱化」という、彼にとっては「でも、いささか、見るに堪えない」大学生活を過ごしている。この小説は四つの章から成り立っていて、それぞれで「私」の並行世界の大学生活が描かれている。ある世界では映画サークル「みそぎ」へ、またある世界では怪しい男の弟子に、またある世界ではソフトボールサークル「ほんわか」へ、またある世界では秘密機関「福猫飯店」の一員に。(アニメ版では十個もの並行世界が描かれている。)しかし彼が生きる並行世界はどれも薔薇色のキャンパスライフとは程遠く、どの世界でも同じような結末を辿っていく。

 

誰もが「学生時代にもっとああしといたら良かった」、「今学生時代に戻れたらもっと上手く出来るのに」と考えたことはあるだろう。まだ大学生である「私」も既にそんなことを考えていて、こんなサークルに入らなければ、と後悔の念を抱きながら学生生活を過ごしている。しかし、この物語で語られるのは「私」が信じてやまない並行世界の否定である。「私」はそれぞれの並行世界で異なるサークルや組織に属して右往左往しているが、どの世界を選んでいてもこの物語において変わらないものが人間関係だ。悪友・小津、孤高の乙女・明石さん、樋口師匠、羽貫さん、城ヶ崎、老婆、、。つまり、出会う人とはどんな世界でも出会うし、出会わない人とはどんな世界でも出会わないのだ。自分が自分であり「私」が「私」である限り、小津に振り回され、明石さんを追いかけ続けるといった阿呆な日常は繰り返され、どんな道を選んでも薔薇色のキャンパスライフは手に入ることは無いのである。ただ、これは並行世界の否定であるが、それと同時に今生きる現実世界の肯定でもある。この物語を読んで、「私」が感じていたようにつまらない退屈な学校生活だ、と感じる読者がどれだけいるだろうか。「鴨川デルタ」や「下鴨神社」を始めとする京都という土地、悪友・小津、孤高の乙女・明石さんら面倒且つ離れがたい人々、そして有り余る時間。こんな学校生活を過ごしたい(過ごしたかった)と思う読者の方が多いだろう。「私」は繰り返されるような日常を退屈に思いながらも、最終話「八十日間四畳半一周」で実際に繰り返される四畳半を過ごすことで、小津や明石さんら「出会う人」との再会を果たし、また繰り返される日常に戻っていく。あくまでも繰り返される退屈な日々を肯定することで、日常の儚さを再発見させてくれる物語だ。

 

「僕達の現在を繰り返すことだらけでも そういつか君と出会おう

 そんな日々を思って日々を行こう 生きていこう」

*アニメ「四畳半神話大系」の主題歌、ASIAN KUNHG-FU GENERATION「迷子犬と雨のビート」より